- 2025/6/12
放送大学の「心理学概論」11回、社会心理学の講義です。最後の部分は音声のみ。
ミルグラム実験、アイヒマンに見られる「悪の陳腐さ」の問題は、現代人の必須の教養と思われます。
ミルグラム実験、アイヒマンに見られる「悪の陳腐さ」の問題は、現代人の必須の教養と思われます。
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00:00ご視聴ありがとうございました
00:30みなさんこんにちは 心理学概論第11回担当講師の森です
00:38今回のテーマは社会心理学です
00:42これまでのお会で見てきたように 普通心理学では行動の背後にある心の働きを探求します
00:52しかし人間の行動は 後遺者の内側にある心の働きだけで決まるものではありません
00:59社会心理学において多大な功績を残したクルトレビンは それをこちらに示すような公式で表しました
01:09Bは行動 ビヘイビアですね
01:13Pは人 パーソン
01:16Eは環境 エンバイラメント
01:19そしてFは関数 ファンクションを指しますから
01:23この公式は人間の行動は 人と環境との関数であるということを表しています
01:31つまり人間の行動について探求するなら 後遺者に属する内側の要因だけでなく
01:39その後遺者がどのような環境にいたのかという 後遺者を取り巻く外側の要因も考慮に出る必要があるということです
01:50この際 後遺者を取り巻く環境として特に重要なのは 物理的環境よりも社会的環境です
01:58こうしたことから 社会心理学では 人間の行動を規定する社会的環境にもっぱら焦点を当てた研究が 数多く行われてきました
02:08社会的環境とは一言で言えば 他者が存在する環境のことです
02:15人間は周辺の環境に他者が存在することで さまざまな影響を受けています
02:20これを社会心理学では 社会的影響と言います
02:26そこで 今回の講義では この社会的影響に関する研究を中心に
02:34社会心理学とはどのような学問か ということを見ていきたいと思います
02:41社会的影響に関する初めての実験
02:44これは同時に社会心理学における 初めての実験と言ってもよいのですが
02:50それはトリプレットという人が行った ユニークな実験でした
02:55まずはこちらのパターンをご覧ください
02:58ここに描かれているのは トリプレットが開発した実験器具の設計図です
03:07心理学では研究者自らが実験や調査を行い 実証的に仮説が検証されていきますが
03:15データを収集するにあたって 常に適切な実験器具があるわけではありません
03:21そこで特に先駆的な研究では しばしば実験器具を作るというところから研究が始まります
03:29トリプレットの研究の場合 このようなリールを巻く装置を開発し
03:35この位置のどちらか一方に少年が立ち 一人でリールを巻くという場合と
03:47このように2人が並んで競争する形で リール巻きをする場合で
03:52どちらの方が早くリールが巻けるのか ということを調べました
03:568歳から17歳の子ども 計40人を対象に実験を行ったところ
04:042人で競争させる場合に より早いタイムを出す子どもの数が多かったことから
04:10この実験を通じてトリプレットは 他者の存在は個人の遂行を促進すると結論づけています
04:18また2人で競争させる場合に良いタイムが出たのは
04:22課題遂行時の動機づけが上昇したためだと説明しています
04:27実は当時はまだ心理統計学が十分に発達していませんでしたので
04:33最近になってトリプレットの実験データを再分析したところ
04:37このデータからは競争する場合の方が成績が良くなるとは
04:43結論づけられないということが分かっています
04:45しかしトリプレットの研究が報告されて以降
04:50他者が存在することで個人の遂行成績が向上するという現象は
04:56様々な研究を通じて繰り返し確認されており
05:00これは社会的促進というふうに名付けられています
05:04ただ一方で研究が進むにつれて
05:08他者が存在することによって個人の遂行がむしろ
05:12抑制される場合もあるということも明らかになってきており
05:16こちらは社会的抑制と呼ばれています
05:21しかしそうなってくると
05:23どのような場合に社会的促進が起こり
05:26どのような場合に社会的抑制が起きるのかということが気になります
05:31こちらをご覧ください
05:33これはトリプレットによって初めて社会的促進の研究が行われてから
05:39約70年が経過した1965年に
05:44ザイアンスという社会心理学者が
05:46それまでの社会的促進と社会的抑制の研究をまとめ
05:51モデル化したものです
05:52ザイアンスによれば他者の存在は
05:57それが単にそれが共に同じ課題を遂行しているものである場合にも
06:03あるいは単に観察者に過ぎない場合でも
06:06課題を遂行している人の
06:09換気水準だとか動員水準といったものを上げたりします
06:13そしてその結果としてそこで実施している作業が
06:19日頃から繰り返し行われているような
06:22慣れているものだったり
06:24比較的単純で失敗しにくい課題だったりする場合には
06:28作業効率が上がったり
06:31正確性が高まるなどの促進的な影響がもたらされます
06:36これが社会的促進です
06:38一方同じように他者が存在していても
06:42実施しているのが慣れていない作業だったり
06:46難しい課題だったりする場合には
06:48換気水準や動員水準の上昇が
06:53むしろ遂行を妨げ
06:55社会的抑制が生じるとしています
06:58このような結論はさらに約20年後に行われた
07:03メタ分析という複数の研究の結果を
07:07統計的に統合した分析でも指示されています
07:10このような社会的促進や社会的抑制で焦点が当てられているのは
07:17個人の課題の遂行ですが
07:20集団で互いに協力をしながら
07:22一つの課題を遂行する場合には
07:25社会的手抜きと呼ばれる現象が生じることも知られています
07:30このことを初めて発見報告したのは
07:34フランスの農学者リンゲルマンと言われており
07:38すでに20世紀初頭に
07:40綱を引く
07:42荷車を引く
07:44石薄を回すなどの
07:45集団作業時に
07:471人当たりの作業量が減ることを報告しています
07:50例えば1人でロープを引く場合に
07:55その力は63キロなのに対し
07:583人の場合には
08:001人当たりの力が53キロになり
08:03さらに8人の場合には
08:0531キロまで減ってしまうということが起こります
08:08その後時代が下って
08:12この現象は社会的手抜きと呼ばれるようになりますが
08:15こちらのパターンに示すとおり
08:18同じようにして
08:20例えばできるだけ大きな声で叫んでくださいとか
08:24大きな音を立てて手を叩いてください
08:26といったような依頼をする場合にも
08:29集団の人数が大きくなるほど
08:311人当たりが発する音の大きさというのは
08:34小さくなるというようなことが分かっています
08:37このような社会的手抜きが生じるのは
08:41複数の人が一緒に1つの課題を遂行すると
08:451人1人が負うべき責任が小さくなる
08:48すなわち責任が分散されるためと考えられています
08:53つまり自分がやらなくても
08:56みんながやってくれるという気持ちが
08:59働きやすいということです
09:01一方で課題の遂行がその人にとって重要なもので
09:07また一緒に遂行にあたる他人が
09:10十分に信頼できない場合
09:12他者の遂行の不足分を補うために
09:16むしろ1人当たりの努力量が増えることもあります
09:19自分が頑張らなくてはといった具合に
09:22責任を強く感じるような場合です
09:25これは社会的保障と呼ばれています
09:29さて他者はどのような存在であれ
09:44私たちの思考感情行動などに影響を与えますが
09:49特に他者が多数派を占めるものであった場合
09:53その影響力が増すことが知られています
09:56まずはこちらのパターンをご覧ください
09:59左側に書かれた1本の線分と同じ長さの線分を
10:07右側の3本の線分の中から選ぶとしたら
10:111、2、3のうちどれが正解でしょうか
10:14特に引っ掛け問題ではありませんので
10:17正しいと思うものを1つ選んでください
10:20正解は2番です
10:24おそらくほとんどの人が正解したのではないでしょうか
10:29このように1人で答える分には非常に簡単な問題ですが
10:33次のような状況で同じ問題が出された場合
10:37皆さんは今と同じように2番と
10:40躊躇なく答えることができるでしょうか
10:43その状況というのは
10:46こちらに示したアッシュという社会心理学者が
10:50同調行動を調べる目的で行った実験の状況です
10:53この実験では7から9名の実験参加者を部屋に集め
10:59先ほどお見せしたような問題に1人ずつ順に答えてもらいました
11:04これは実験の様子を写した写真ですが
11:08こちらに立っているのが問題を出す実験者
11:12そしてテーブルを囲んで座っている人たちが
11:19実験参加者ということになります
11:22しかし実は矢印で今指しているこの人物以外は全て桜です
11:30桜は事前に実験者と口裏を合わせており
11:35決まったタイミングでわざと間違った答えを言うことになっています
11:38具体的には先ほどと同じような問題が
11:43全部で18問出題されるのですが
11:45そのうち12問では桜はわざと間違った答えを言うようにしていました
11:51例えば先ほど皆さんにお見せした問題の正解は2番でしたが
11:57向かって左側の人から順に答えを求めると
12:01みな1番1番1番といった具合に答えていくということです
12:06このような状況でもし皆さんがこの男性と
12:11同じ場所に座っていたとしたらどうするでしょうか
12:14自分の意見を貫き通すでしょうか
12:18それとも他人の答えに他の人たちの答えに合わせて
12:22間違った答えを言うでしょうか
12:25いずれにせよ自分の回答の順が回ってくるまでの間
12:29心中は穏やかではないのではないでしょうか
12:32今こちらでお見せしているのは
12:37実際の桜でない実験参加者が
12:41自分の回答の順が回ってくるまでの間
12:46どんな様子を見せていたのかを撮影したものです
12:50等枠して何度も問題を確認したりしている様子が分かります
12:55しかし最後にはその動揺を隠すかのように
13:00平然とした様子で回答していることが分かります
13:03それでは実験の結果を見てみましょう
13:07こちらの表の下の段ですね
13:11下の段 統制群と書かれた行に示したのは
13:15実験参加者が単独で問題に回答した場合の結果で
13:2012問の問題に対し37名中35名は
13:25一度も間違えることなく正しく答えていた
13:29ということが分かります
13:31ところが先ほどご説明したような形で
13:36桜が揃って誤った回答をした場合
13:3912問の問題に対して1問も間違えなかった人は
13:4350名中13名しかいませんでした
13:47つまり残りの37名
13:50実験参加者の約4分の3に当たる人は
13:53少なくとも1回は間違った答えをしました
13:57参加者1人当たりの誤答回数は4回弱
14:03多い人でいうと10回とか11回間違えている人もいる
14:08ということが分かります
14:09下の段の統制群の結果と見比べれば
14:14これはおそらく桜の回答への同調が起きた
14:18そのために間違えたものだということが
14:21分かると思います
14:22それではなぜこのような同調が起きるのでしょうか
14:28後の研究から同調には
14:31情報的影響と規範的影響の2つが
14:35作用するということが指摘されています
14:37こちらのパターンの左側に示しているように
14:42情報的影響は私たちが正しい判断や
14:46適切な行動をしたいという動機を持つことに由来します
14:50私たちは日々様々な場面で
14:54様々な判断や行動をしていますが
14:57時として何が正しいのかということが曖昧で
15:00判断がつかないような時があります
15:03そのような時私たちは他者
15:05特に多数の他者の判断は有用だと考え
15:10正しい判断をするための手がかりとして
15:13他者を参照します
15:14例えばなじみのない土地で
15:18昼食を取ろうとした時
15:19お客がたくさん入っているお店と
15:22あまり入っていないお店があったら
15:24よほど時間が切迫していない限り
15:27混んでいる方のお店に入りたいと思うのではないでしょうか
15:31それは多くの人が選んでいるお店であれば
15:35美味しい料理を出してくれるだろう
15:37というふうに私たちは考えるからです
15:40インターネットの口コミサイトなどが
15:44人気なのも同じ理由です
15:46多くの人が良いと思っているものは
15:49きっと良いに違いないと思い
15:52正しい判断をしたいという動機から
15:55他者の意見に同調した行動を取るというわけです
15:59一方
16:00規範的影響は
16:02他者の行動を規範とみなし
16:06他者から拒絶されることを避けるため
16:09あるいは他者に好かれようとして生じるものです
16:13例えば会社は17時で仕事を終えることになっていたとしても
16:20残業することが暗黙の了解となっていれば
16:23一人だけ定時に帰宅することは
16:25なんとなくはばかられ
16:27いやいやながらも残業してしまう
16:30といったことがあるのではないでしょうか
16:32それはこのような規範的な影響を無視することによって
16:38他のメンバーから避難されたり
16:40排斥されたりすることを恐れるからです
16:42先ほどご紹介したアッシュの同調の実験は
16:48互いに見知らぬ人同士で行われましたが
16:52集団のメンバーが互いに顔なじみであったり
16:56集団としての結束力が高かったりする場合には
17:01規範的影響の力はさらに強まるということも知られています
17:06ただ多数派の同調圧力というのは確かに強力ではあるんですけれども
17:14それに対して少数派が常に脆弱というわけではありません
17:19皆さんは12人のイカれる男というアメリカ映画をご存知でしょうか
17:27売信員の表儀の様子を描いた密室劇で
17:31登場人物もほぼ売信員を務める12人の男たちだけという
17:36一見すると地味な映画なんですが
17:39非常によくできた作品で私自身も大好きな映画の一つです
17:43ごく簡単にストーリーを説明すると
17:4712人の売信員が話し合っているのは
17:50父親殺しの罪に問われた少年が有罪か否かです
17:54少年は普段から速報が悪く
17:57法廷に提出された証拠や証言は
18:00被告である少年に圧倒的に不利なものであったため
18:04当初売信員の大半は少年の有罪を確信し
18:09早々に有罪判断を下しその場を引き上げようとしていました
18:13しかし採決を取り全一致で有罪になると思われたところ
18:19わずか1名ヘンリー・フォンダー演じる売信員8番のみが
18:24少年の不幸な身の上に同情し
18:27本当に個々の証拠が十分に彼の有罪を証明するに足るものなのか
18:32それを検証するようにと主張します
18:35最初は取り合わなかった他の売信員も
18:38売信員8番の一貫した主張と
18:41理路整然とした推理に心を動かされるようになり
18:45徐々に無実を確信するものが増え
18:47最後は全一致で無罪の氷結を下すというストーリーです
18:52もちろんこれはフィクションですが
18:56少数派は多くの場合多数派の同調圧力に屈するものの
19:01まさにこの映画のように一貫して説得力のある異論を唱え続ける
19:07少数派が存在すると
19:09その言動が高い情報的な価値を持つようになり
19:13むしろ多数派が少数派に同調する場合がある
19:17ということも明らかになっています
19:19また少数派が単なる一個人ではなく
19:25権威を持つものであった場合
19:27わずか1名であったとしても強い影響を持つことも知られています
19:33そこで次にそのことを明確に示す
19:38権威の服従と呼ばれる有名な実験をご紹介しましょう
19:42それではまずこちらの映像をご覧ください
19:49これは権威の服従と呼ばれる実験の記録映像です
19:53この実験では地元市の広告やダイレクトメールを通じて
19:58集められた一般市民が実験参加者として大学の実験室に来ています
20:03するとそこにはもう一人別の実験参加者がやってきますが
20:09実は彼はいわゆる桜です
20:11実験服を身にまとった実験者は
20:15これから行う実験は
20:17×が記憶を促進するかを調べるものだということを説明します
20:22そして9時で実験参加者の一方を問題を出す教師役
20:28一方をそれに答える生徒役に決めるのですが
20:329時には細工が施してあり
20:34本物の実験参加者は必ず教師役に
20:38桜は必ず生徒役になるようになっています
20:42教師役の役目は生徒役に記憶力を調べる問題を出し
20:49生徒役が間違えたら×を与えることです
20:53ここでいう×とは電気ショックのことです
20:56生徒役の桜は小さな部屋に案内されると
21:03手首に電極をつけられ
21:07椅子に固定され
21:08容易には逃げ出せない状態にされます
21:11実験者はそのことを教師役である
21:19本当の実験参加者に確認をさせた上で
21:23隣の部屋に案内します
21:24案内された教師役の座席の前には
21:29電気ショックの発生装置が置かれ
21:3115ボルトから450ボルトまでの電気ショックを
21:3630段階で与えられるようになっています
21:39また装置にはボルト数のほかに
21:42電気ショックの強さを示す言葉が書かれており
21:45強さの度合いがイメージできるようになっています
21:48例えば375ボルトには
21:52危険・デンジャーという言葉が記されており
21:57相当に強い電気ショックであることが分かります
21:59しかし435ボルトからは
22:03ただ×××と書かれているだけで
22:06それがどの程度強い電気ショックなのか
22:09もはや想像もつかない状態です
22:11このような装置を使い
22:14実験者は教師役に対し
22:17もし生徒役が答えを間違えたら
22:19×を与えるように指示します
22:21しかも間違えるごとに
22:241段階つまり15ボルトずつ
22:27強い電気ショックを与えるようにと言われます
22:30こうしていよいよ実験が始まります
22:36生徒役は教師役が示す4つの選択肢の中から
22:41正しいと思う番号を答えるのですが
22:44いざ実験が始まると
22:47生徒役はなかなか正解をしてくれません
22:49そのため教師役は
22:52どんどんと電気ショックの強度を上げていくことになります
22:56しかし強度が上がるにつれ
23:03生徒役は悲鳴を上げ
23:05臨室から苦しみを訴えたり
23:09抗議をしたりするようになります
23:10さらに電気ショックが強くなると
23:14生徒役はもうこんな実験には協力しないと言って
23:17回答もせず声も聞こえなくなってしまうのですが
23:21教師役のいる場所から
23:23生徒役の姿を見ることはできないため
23:26無事なのかどうかということも分かりません
23:29もちろん実際には
23:38生徒役である桜は
23:41桜には電気ショックを与えられておらず
23:44悲鳴の声などは全て演技です
23:46実験の最後には
23:49こんなふうににこやかな顔で桜が登場し
23:52教師役と握手を交わすのですが
23:54それまでの間
23:55教師役である本物の実験参加者は
23:58ずっと自分が電気ショックを与えていると信じています
24:02皆さんいかがでしたでしょうか
24:06それではこちらのパターンをご覧ください
24:10この男性が実験を行った
24:13ミルグラムです
24:14またこちらの図は先ほど映像でも見た
24:18電気ショックの発生装置の操作パネルを
24:20模式的に示したものですが
24:22トリプレットのリール巻機器と同じように
24:25これもミルグラムが発案し開発した
24:28オリジナルの実験機器です
24:29このように電気ショックのレベルが
24:3230段階に分けられていて
24:35段階的に強度が増すようになっていたことで
24:39教師役の実験参加者が
24:41実験者という権威者の指示に従って
24:44罪のない生徒役にどの程度まで
24:47攻撃性を示すのか
24:48その攻撃性の程度が数値で示すことができる
24:52というふうになっているのが
24:54この装置の優れた点だと思います
24:56さてそれではもし皆さんが
25:01教師役としてこの実験に参加していたとしたら
25:05皆さんはどれくらいまで
25:07生徒役に電気ショックを与え続けるでしょうか
25:10この際あなたの行動は
25:13斜め後ろにいる実験者に監視されているという状態です
25:18そして途中
25:20もしあなたが電気ショックを与えるのを
25:23躊躇した場合には
25:24続けてくださいといった
25:26提携の促しが繰り返されます
25:29それでもなお
25:31あなたが電気ショックを与えることを拒んだら
25:35そこで実験は終了ということになります
25:38いかがでしょうか
25:40実験の結果を見る前に
25:43まずは心の専門家ということもできる精神科医が
25:47この実験の概要を聞いたとき
25:49どのような予測をしたのかということを見てみましょう
25:53こちらのパターンをご覧ください
25:56こちらに示したのがその予測で
26:00精神科医40名分の予測を平均化したものです
26:04横軸には電気ショックの強さ
26:09縦軸にはそのレベルの電気ショックのボタンを
26:14押すと思われる参加者の割合が示されています
26:19この図から分かりますように
26:2110段階目では電気ショックを与える実験参加者は
26:26すでに半数を切ると予測されています
26:2910段階目というのは電気ショックのレベルでいうと
26:33150ボルト発生機には強い電撃と書かれた強度で
26:38この段階で精神科医は
26:40この実験から解放してほしいという要求を始めます
26:44その後20段階目300ボルトになると
26:50精神科医はもうこれ以上は答えないと
26:53実験を拒否するようになりますが
26:55精神科医の予測によれば
26:58この段階まで電気ショックを与え続ける実験参加者は
27:024%に満たず最後の30段階目
27:06すなわち450ボルトまで電気ショックを与え続ける人は
27:11いたとしても1000人に1人2人という程度で
27:16よほどサディスティックな傾向を持たない限り
27:19ここまでの電気ショックを与え続ける人はいないだろうと予測しました
27:23しかし実際の実験結果はその予測を大きく逸脱するものでした
27:30この実験には様々な属性を持つ一般市民40名が
27:36実験参加者として参加したのですが
27:38こちらのパターンに示す通り
27:40そのうちの25名
27:42つまり全体の62.5%が最高レベルまで
27:47生徒役に電気ショックを与え続けたのです
27:50しかし電気ショックを最大強度まで与え続けた
27:55実験参加者が特別に冷酷な人だったというわけではありません
27:59先ほどお見せした映像には
28:03その後も次々と別の参加者が登場するのですが
28:07いずれもため息をついたり
28:10苦痛で顔を歪めたりしながらも
28:12生徒役に電気ショックを与え続けています
28:15冒頭で人間の行動は
28:31人と環境の関数であるという
28:34レビンの公式を紹介しました
28:36ここまで示した研究は
28:39いずれもその人を取り巻く環境
28:42とりわけ他者の存在という社会的環境が
28:46私たちの行動に非常に大きな影響を及ぼしている
28:50ということを示しています
28:52特に今ご紹介したミルグラムが行った
28:56県への服従実験は
28:58自分にそのような意図がなかったとしても
29:01状況次第では
29:03罪のない他者を死にいたらしめてしまうかもしれない
29:06という恐怖を感じさせるものです
29:09実は県への服従実験の元となったのは
29:13社会哲学者のハンナ・アーレントが
29:17こちらに示す
29:18イエルサレムの愛肥満という著書の中で書いた
29:22悪の陳腐さという概念です
29:25第二次世界大戦時
29:28アドルフ・ヒトラーは
29:29数百万人のユダヤ人を虐殺したとされますが
29:33その実行役すなわちユダヤ人を
29:36強制収容所へと移送する指揮官などは
29:39アドルフ・アイヒマンという人物が
29:42勤めていました
29:43彼は戦後その罪により裁判にかけられましたが
29:48テレビ中継をされた彼の姿を見て
29:50多くの人はとても驚いたそうです
29:53人は見かけによらないと言いますが
29:56それでも多くのユダヤ人を恐怖に陥らせた
30:00その事実とは裏腹に
30:02実に平凡で気の弱そうな風貌をしていたからです
30:06こちらに示しているのが
30:09裁判時の法廷でのアイヒマンの姿ですけれども
30:12皆さんはどのような印象を持つでしょうか
30:16しかも彼は裁判を通じて
30:20ユダヤ人虐殺について
30:22大変遺憾に思うとは述べはしたものの
30:25自身の行為については
30:27命令に従っただけであって
30:30自らの意思に基づくものではないと
30:32繰り返し主張しました
30:34もちろんそれは
30:36自分の罪を少しでも軽くするための
30:39単なる奇弁かもしれません
30:41しかしハンナ・アーレントによれば
30:44邪悪な男たちのほとんどは
30:47実際のところ
30:48上官の命令に従う平凡な人物に過ぎず
30:51それはアイヒマンも例外ではないといいます
30:54先ほどご紹介した
30:57県への複重実験は
30:59こうしたアーレントの考えに基づいて計画されたもので
31:02実験計画を見る限り
31:05アイヒマンがしたことは
31:06県への複重実験の参加者の多くがしたことと
31:10本質的な違いはないと
31:12解釈することもできるかもしれません
31:14こうしたことから
31:17県への複重実験は
31:18しばしばアイヒマン実験とも呼ばれています
31:21ただ県への複重実験の結果を知ってもなお
31:27多くの人はやはりアイヒマンや
31:30電気ショックを最後まで流し続けた実験参加者は
31:35残虐な人で
31:36自分ならばたとえそのような状況に置かれたとしても
31:41決して罪のない他者に
31:43大きな危害を与えるようなことはしないと
31:46考えるのではないでしょうか
31:47こちらのパターンをご覧ください
31:51社会心理学では
31:54ある現象の原因を何かに記することを
31:58原因貴族あるいは単に貴族と言います
32:02繰り返しになりますが
32:05レビンの公式によれば
32:07人間の行動は
32:08人と環境との関数によって規定されます
32:11したがって他者の行動がどのような原因によって
32:16生じているかということを考える場合
32:19その原因は本人の内面に関する要因
32:23すなわちレビンの公式で言うところの
32:26Pと本人を取り巻く環境や状況の要因
32:29すなわちEこの2つを考えるべきです
32:33しかしながらどうやら人間には
32:36他者の行動の原因を考えるとき
32:39状況的な要因を過小評価し
32:42代わりにその人自身の内的な要因を
32:46重要視しすぎるという嫌いがあるようです
32:50これを基本的な貴族のエラーと言います
32:55基本的な貴族のエラーには
32:58しばしば認知的権約化と比喩される
33:02人間の性質が関係していると考えられます
33:05私たちの身の回りにはいつも
33:10無数の情報があふれています
33:12人間はこうした情報を感覚機関から入力し
33:17必要な情報処理を加え行動として
33:20出力するわけですが
33:22コンピューターと同様に
33:24人間の情報処理にも限界があります
33:26つまり私たちを取り巻く
33:29すべての情報を処理しようとすれば
33:31オーバーフローしてしまうし
33:33また情報処理には時間や労力がかかるので
33:36常に限界まで情報処理に力をかけていれば
33:41疲弊をしてしまうというわけです
33:43そこで人間は特別な理由がない限り
33:48必要最小限の時間や労力のみをかけ
33:52限りのある認知的な資源を
33:54無駄遣いしないように努めていると考えられています
34:00これが人間は認知的権約家である
34:04という言葉の意味するところです
34:07こちらのパターンに示すように
34:10ギルバートによれば人間は他者の行動の原因を
34:15推測する際
34:16まず行為者の内的な要因を求める
34:20内的貴族を行い
34:22その上で必要であれば
34:24外的な要因に原因を求める
34:27そういったものを外的貴族と言いますが
34:30それを行うと言います
34:31つまり内的な貴族と外的な貴族というのは
34:37同時進行で行われるのではなく
34:39段階的に行われるということです
34:43これは属性推論
34:46つまり内的貴族ですが
34:48こちらの方が認知的資源をあまり必要とせず
34:52無意識のうちに進行する過程であるからです
34:55一方それに続く外的な貴族
34:59状況の要因を考慮する段階は
35:02認知的な資源を多く消費する過程
35:05つまり努力が必要な過程であり
35:07内的貴族だけでは不十分な場合に初めて
35:11外的な要因を考慮する
35:13つまり状況要因を考慮した修正というのが
35:16行われるというふうに考えられます
35:18そのため例えば怒っている人というのを見つけたとき
35:24私たちはなぜあの人は怒っているのだろうかと
35:28その原因を推測するわけですが
35:30きっとあの人は怒りっぽい人だろうという
35:34属性を推論する
35:36つまり内的な貴族を行うと
35:38そこで満足をしてしまい
35:40この段階で原因貴族というものが
35:43終わってしまうことがあるというふうに
35:45このモデルは予測します
35:47今回の講義で見てきたように
35:50人間の行動は私たちが想像する以上に
35:54外的な環境つまり周辺の状況によって
35:57影響を受けています
36:00特に他者の存在による影響というのは
36:03非常に大きいものです
36:05したがって本来ならば
36:07あんなこと言われたら誰でも起こるよというような
36:11そういった状況要因を考慮した修正というのを
36:15行うべきケースというのは多々あるわけですが
36:18それがなかなか起こりにくく
36:20そのために基本的な貴族のエラーというものが
36:24生じてしまうと考えられています
36:26それではここまでで本編のお話は終わりにし
36:33今回も心理学の知識を活用し
36:36さまざまな現場で活躍されている方をご紹介したいと思います
36:40今回はTBSテレビ編成局マーケティング部の
36:58江里川茂さんにお越しいただきました
37:00どうぞよろしくお願いいたします
37:02よろしくお願いします
37:03早速ですが江里川さんはテレビ局にお勤めということですけれども
37:08具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか
37:11私の仕事というのは調査のデータに基づいて
37:16番組の現場ですとか編成あるいは営業といった
37:20社内の各所にその資料を提供していくといったことが
37:24主な仕事になっています
37:26調査のデータということなんですが
37:29テレビで調査データというと視聴率というのがやはり一番大きくて
37:33視聴率調査というのは日本で各地で行われているんですけれども
37:37対象の世帯関東の場合ですと900世帯ですが
37:41その対象世帯のテレビに機械を取り付けて
37:44そのテレビの見られ方といったものを日々報告してくると
37:49それを取りまとめて資料にするといったようなことを行っています
37:53また視聴者の方にアンケート調査や
37:57あるいは集まっていただいてグループインタビューといったような手法で
38:01番組について伺うといったこともしたりしています
38:04そういう意味では大規模なアンケート調査として
38:07TBSがキー局であるJNNという全国組織では
38:13毎年1971年からJNNデータバンクという
38:16人々のライフスタイルに関する調査を継続していますし
38:20あるいはTBSが独自で行っている総合思考調査という
38:24人々の異色獣とかレジャーとか
38:27いろいろな分野についての好みを聞くといったようなアンケート調査
38:32これも1975年から行っているんですが
38:34そういう調査を運営するといったようなことをして
38:38そういうデータも使いながら番組の改善といったことを
38:42データの観点からするということを仕事としてやっています
38:45江里川さんは大学大学院と心理学
38:50特に社会心理学を専攻されていたということなんですけれども
38:53その頃に学んだ知識などが
38:57今の仕事にはどのように活かされているでしょうか
38:59大学大学院のときに社会心理学ということで
39:04そのときそのときにはいろんなテーマを
39:07面白そうなものを研究していたんですが
39:09それらのすべてに共通するのが
39:11アンケートで調査を行うと
39:13調査という手法でデータを収集するということが
39:16共通していました
39:18どのような調査表を作れば正確な回答が得られるかとか
39:23どういう手法で回答者を集めれば
39:26全体を代表するようなサンプルが作れるかといったような知識というのが
39:32今現在私自身の仕事にも大きな財産となっているというふうに思っています
39:38といいますのも今いろいろな企業で
39:41マーケティングというふうなことで
39:44データを使っていろいろ意思決定をするとか
39:49事業をどのように発展させていくかといったことが行われていまして
39:53データが非常に多用されていくという時代になってきています
39:57ただ数字になったデータというのは
40:01非常にもっともらしく見えるんですけれども
40:03その数字のもとである調査というのが
40:06どのように行われたのかということが
40:08ちゃんと分かっていないと
40:09結果だけ見てそれに振り回されてしまうということが起こりやすくなります
40:14そういうこともありますので
40:17調査の仕方について
40:20基本的な研究も必要だと考えていまして
40:23例えばその一環として
40:25ウェブ調査で回答の形式が
40:28その結果にどのような影響を与えるかという研究も
40:32共同研究者と一緒にやったりしています
40:35例えばこの研究で言えば
40:37たくさん選択肢があるものについて
40:41好きなだけ丸をつけてくださいというふうに聞く場合と
40:44一つ一つについて当てはまるか当てはまらないかを聞いていくというふうな
40:49二通りの聞き方でした場合に
40:51同じ内容でも一つ一つについて当てはまるか当てはまらないかを聞いた方が
40:56選択率が高くなるといったような結果が分かったりしています
40:59あるいはテレビの心理ということで
41:02テレビ親近感尺度というものを作成して
41:05テレビ親近感を測定するといった研究もしたりしています
41:09テレビ親近感というのはテレビがどれぐらい視聴者にとって
41:13身近なものであるか大切なものであるかということを
41:15調べる尺度なんですけれども
41:17欧米の方のメディア研究では基本的な心理尺度としてあるんですが
41:23日本ではまだその整備がなかったので
41:25これも外部の共同研究の方と一緒になって
41:29その心近感尺度を作ってそれを役立てていくということをしています
41:34このような心理的な心理学的な研究も通じながら
41:40テレビ番組というものがより良いものになっていくということに
41:43貢献できれば良いというふうに思っています
41:45それでは最後に今心理学を学んでいる方に
41:51ぜひメッセージをお願いしたいんですけれども
41:53心理学の知識という個別のものが仕事に役立つかどうかというのは
42:02やっぱりその仕事のそれぞれの内容によると思うんですけれども
42:06今も申し上げたように私の場合は
42:09社会心理学で調査という研究の仕方ですね
42:14手法をよく勉強したということは一つ
42:16仕事上に非常に役に立っていると
42:18それからあと心理学のベースにあるものの考え方ですね
42:23論理的に考えるとかあるいは批判的に考えるといったこと
42:27そういったものを身につけていくということは
42:30やはりどんな仕事にも生きることがあるんだと思います
42:35ですので心理学の個別の知識とか理論とか
42:39そういったことを勉強していくというのももちろん大事ですし
42:42それから研究の仕方 手法ですね
42:45研究法というものについて習熟する
42:48それからものの考え方 論理性とか批判性みたいなことも
42:53身につけていくということが
42:54全体として非常に仕事ということでも
42:57役に立つのではないかと思います
42:58本日は貴重な話をどうもありがとうございました
43:02これで心理学概論第11回 社会心理学の講義を終わります
43:10ご視聴ありがとうございました
43:40ご視聴ありがとうございました
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