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  • 5/5/2025

Transcript
00:00昔々のこと
00:03今の下関が赤間が関と呼ばれていた頃のお話
00:09阿弥陀寺というお寺がありました
00:13そのお寺に法一という目の見えない貧しい美和匹が
00:19その芸を和尚に見込まれて引き取られておりました
00:22法一は幼い頃からその不自由な体に
00:28美和の弾き語りを仕込まれ
00:30まだほんの若者でありながら
00:33すでにその芸は師匠をしのぐほどになっていました
00:37法一は原兵の物語を語るのが得意で
00:44とりわけ壇の裏の合戦の下りを語るときは
00:48その真に迫った芸に
00:50誰一人涙をささわれない者はいませんでした
00:54その昔
00:58壇の裏において
01:01源氏と平家の長い争いの最後の決戦が行われ
01:06争いに敗れた平家一門は
01:09女や子供に至るまで
01:10安徳天皇として知られている
01:14妖帝諸共
01:15ことごとく海の底に沈んでしまいました
01:19この悲しい平家の最後の戦いを語ったものが
01:25壇の裏の合戦の下りなのです
01:29蒸し暑い夏の世のこと
01:37法一は和尚さんが法事で出かけてしまったので
01:41一人お寺に残って
01:43琵琶の稽古をしておりました
01:46音楽
02:16法一
02:24はい
02:26どなた様か私をお呼びのようですが
02:31私は目が見えませんので
02:34私はこの寺の近くに足を止めておられる
02:38さる身分の高いお方の使いの者じゃ
02:41殿は
02:42その方が合戦物語を語るに
02:46長けているという噂をお耳にして
02:49ぜひ聞いてみたいとお望みじゃ
02:52私の美話を
02:54さよ
02:55館へ案内いたす
02:58わしの後ろについてまいり
03:00法一は身分の高いお方が
03:03自分の美話を聞きたいと望んでおられると聞いて
03:06すっかり興奮して
03:08武者の後について行きました
03:10しばらく行くと
03:12大きな門につきました
03:14この辺りには
03:16お寺の門より他に
03:18大きな門はないように思っていたので
03:20法一はどこのお屋敷だろうと考えました
03:23やがて門が開かれて
03:27広い庭を通ると
03:29大きな館の中に通されました
03:32そこには大勢の人が集まっているらしく
03:37さらさらと絹ずれの音や
03:40鎧の触れ合う音が聞こえていました
03:43法一
03:45早速そなたの美話に合わせて
03:49平家の物語を語ってくだされ
03:53いずれの下りをお聞かせいたしたら
03:57よいのでしょうか
03:58壇の裏の下りを吟じられ
04:02かしこまりました
04:04法一が琵琶を鳴らして語り始めると
04:10見事な琵琶の音は
04:13狼操る音
04:15船に当たって砕ける間に
04:19弓鳴りの音
04:20兵士たちのおたけびの声
04:22生き絶えて海に落ちる武者の音などを
04:26巧みに表し
04:27大広間はたちまちのうちに
04:29壇の裏の合戦場になってしまったようでした
04:32やがて合戦も平家の悲しい最後の下りに入るや
04:40広間のあちこちにむせび泣きが起こり
04:43法一の美話が終わってもしばらくは誰も口を聞かず
04:48しーんと静まり返っていました
04:51やがてご苦労様でした
05:02殿も痛くお喜びの御様子じゃ
05:06ありがとうございます
05:08何ぞふさわしいお礼を下さるそうじゃ
05:12なれど
05:14今宵より六日間
05:17毎夜そなたの美話を聞きたいとのおせ
05:21よって明日の夜もこの館に参られるように
05:25明日の夜も
05:27それから法一
05:29寺に戻ってもこのことは誰にも話してはならぬ
05:33よろしいな
05:35朝になって寺に戻ってきた法一は
05:41和尚さんに見つかってしまいました
05:44和尚さんは法一に夜通しどこに行っていたかを尋ねましたが
05:49法一は館での約束を守り一言も話しませんでした
05:54そしてまたも夜がやってきました
06:00和尚さんは法一が何も言わないので
06:07何か深いわけがあるに違いないと思い
06:10もし法一が出かけることがあれば
06:13後をつけるように寺男に言い含めておきました
06:17ところが目の見えないはずの法一の足は意外に早く
06:23闇夜にかき消されるように姿が見えなくなってしまいました
06:27一体どこへ行ったんだ
06:29どこにも姿が見えんぞ
06:30もう一度あなたらを探してみよう
06:32あそこは法一さんだ
06:53寺男たちは安徳天皇のお墓の前で
07:02ずぶ濡れになって美話を引いている法一を見て
07:05法一が亡霊に取り憑かれているに違いないと
07:09力任せに寺に連れ戻しました
07:12夕べの出来事を聞いた和尚さんは
07:18法一が亡霊に惑わされていることを知って
07:21魔除けのまじないをすることにしました
07:24法一お前の人並み外れた芸が
07:28亡霊を呼ぶことになってしまったようじゃ
07:31今夜もわしは村のおつやり出かけるが
07:34今夜は誰が呼びに来ても口を聞いてはならんぞ
07:38はい
07:39しっかり座禅を組んで
07:42みじろぎ一つせむことじゃ
07:45恐れて返事をしたり声を出せば
07:47お前は今度こそ亡霊に八つ先にされてしまう
07:52わかったな
07:53法一
07:58法一
08:00迎えに参ったぞ
08:03法一
08:06返事を防い
08:09どこじゃ
08:10法一
08:12法一
08:14法一
08:16ん?
08:18ん?
08:19美話があるが
08:20引き手がおらぬ
08:22ん?
08:23ふたつの耳だけが見える
08:28なるほど
08:29口がなくては返事もできまい
08:32それなら一層
08:34その耳だけでも持ち帰って
08:37法一を呼びに参った証とせねはなるまい
08:44うおう
08:45うう
09:04和尚さんは、夜明け前に戻ると、急いで法一の様子を見に座敷に駆け込みました。
09:11法一、無事だったか。
09:15法一、お前、耳は、耳は、その耳はどうした。
09:24そうであったか。なんとかわいそうなことをしてしまうた。
09:29お前の体にすっかり経文を書いたと思うたに、耳をかき残してしまったとは気がつかなかった。
09:38よしよし、わしが良い医者を頼んで、手厚く手当てをしてやろう。
09:48法一は、両の耳を取られてしまいましたが、
09:53その日からもう亡霊につきまとわれることもなく、
09:57ほどなく医者の手当てのおかげで、傷も良くなりました。
10:04やがて、この噂は口から口へと伝わり、
10:09法一の美話はますます評判になっていきました。
10:13そして人々は、美話法師の法一をいつか、
10:19耳なし法一と呼ぶようになり、
10:22その名前を知らない人がないほどに、
10:26有名になったということです。
10:28ご視聴ありがとうございました。
10:34ご視聴ありがとうございました。

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